白へ至る

備忘録、ドラマの感想など

祖母が作るお味噌汁には、じゃがいもが入っていた。

お題「おばあちゃんの思い出」

 

母方の祖母は、佐賀の田舎町の美容師だった。とにかくおしゃべりで、ちょっと毒舌で、だけど気は優しくていつも笑顔の人だった。

 

祖母宅と実家は同じ町内にあり、さらに両親は共働きだったので、私は保育園から小学校低学年まで、毎日のように祖母宅を訪ねていた。祖母が作ったご飯もたくさん食べた。

 

一番に思い出すのは、クチゾコの煮付けと、じゃがいもの入った味噌汁。

 

クチゾコは本当はクロウシノシタという名前の魚らしいが、私の地元でそう呼んでも多分誰にも通じない。シタビラメの仲間で、白身がとてもおいしい。靴底のような平べったい形状なのでクツゾコ。そこから更になまってクチゾコという地方名がついたらしい。

私達は「クッゾコ」と呼んでいた。

 

 

このクチゾコの煮付け、私が好きだから祖母が張り切って振る舞ってくれていたのか、単純によく食べたから好きになったのか分からないけれど、本当に何度も食べた。

 

祖母の味付けはとても九州らしい、濃い甘辛の味付け。しょっぱ甘くて、白いご飯がたくさん食べられる味だった。

 

煮付けには必ず白ご飯と、じゃがいもの味噌汁がついてきた。

 

味噌汁も、母が作るものより甘かった気がする。味噌の違いだったんだろうか。白味噌か、合わせ味噌だった。

 

いちょう切りにされたじゃがいもが入っていて、口の中でほろっと崩れるのが好きだった。じゃがいも以外の具は、確かわかめ。豆腐は入っていたか、よく覚えていない。

 

有明海でよく獲れるらしいクチゾコは、母曰く、昔よりも値段も高くなったらしい。私が今住んでいる地域では、そもそもあまり見かけない。

久しぶりに食べたいけれど、きっと祖母のあの味付けじゃないと満足できない気がする。

 

じゃがいも入りの味噌汁はたまに真似をする。自分で作っても美味しいけれど、どこかで祖母の味を探してしまう。

 

私の姉が好きだという理由で、きゅうりの酢の物もよく出てきた。これは夏の定番メニューだ。きゅうりを塩で揉み、水気を絞る手伝いを何度かした覚えがある。懐かしい。

でも、私はあまり酢の物は好きじゃなかった。

 

祖母は7年ほど前に亡くなった。

だからもう、あの味は食べられない。

 

祖母が自分で料理を作らなくなったのは、いつからだったんだろう。最後の数年は弱っていて、自分で台所に立つことはなくなっていた。

 

そういえば、祖母の好きな食べ物はなんだったんだろう。あんなに世話してもらっていたのに、私は祖母の好物もよく知らない。

 

いま会えたら、一緒に台所に立って、煮付けと味噌汁のレシピを教えてもらいたい。好きな食べ物を作ってあげたい。

 

しかし結構うるさいババアだったので、手際や味が悪いと、嫌味なことも言われたかもしれない。あまり料理に手出しをされるのを嫌って、いいから座っときなさいとか言って、全然手伝わせてもらえないかもしれない。

 

いま隣に並んだら、祖母の背中はとても小さいはず。

 

狭いダイニング、オレンジ色の古びたシェードな(いかにも昭和なデザインの)電気の下で食べた、クチゾコの煮付けとじゃがいも入りの味噌汁。

 

もう二度と食べられないと思うと、やはり切ない。切ないけれど尊い

 

多分一生覚えている、大切な食の思い出。

私は今でも、祖母の味に近い、あの濃くて甘じょっぱい味付けが大好きだ。