白へ至る

備忘録、ドラマの感想など

平気で傘を盗む人がいる

タイトルのままのことを、長文で書く。

 

雨の日、なじみの定食屋でランチにした。傘は出入り口の傘立てに突っ込んだ。透明のビニール傘だ。

 

分かっていた。この手の傘は間違われやすいし、盗まれやすい。だから他の傘との区別と、ちょっとしたマーキングの意味も込めて、傘の取手には派手なマスキングテープを貼って目印をつけていた。

 

そんな工夫も虚しく、昼食後、私の傘は消えていた。

 

あの定食屋の出入り口は歩道からやや奥まった場所にある。犯人はわたしと同じく、あの定食屋のランチ客に違いない。

 

その日は遅い昼食だったので、店内には片手で数えられるしか客がいなかった。わたしの食事中に出て行ったのも1、2人だ。顔など細かく確認していなかったが、あの誰かが犯人なんだろう。

はっきり言って、クソ野郎である。

 

おいしくいただいた塩サバ定食の満足感が、ビニール傘が一本なくなったことで台無しになった。

 

「ビニール傘は使い捨て、天下の回りものだ」なんて言うバカモンもいるらしいけれど。冷静に考えてると、おかしな言い分だ。

 

たしかにビニール傘は安い。300〜600円くらいだろうか。でも、いくら数百円のものでも、人のものを勝手に使って良い、盗んで良い理由にはならない。これがバッグだったら? 帽子なら? ペンひとつでも、知らない人が一時保管の場所に置いていたものを勝手に持っていきますかって話。

それらは絶対に「泥棒だ」と思うはずなのに、なぜ傘になると「借りた」に変換されてしまうのか。なぜ傘なら盗まれても仕方ない、なんて風潮が当たり前になっているのだろう。

ヘンテコだ。大の大人が、平気で人のものを盗むなんて。

 

あの定食屋の昼の客は、ほとんどが近所で働くビジネスマンだ。今回、私のほかにいた客たちも(顔ははっきり見ていないけれど)服装はスーツだったので、立派な社会人だ。

 

みんな、普段は一生懸命(たぶん)働いている大人だ。そんな働き盛りの、いい年齡の大人が、ランチついでに他人のモノをちゃちゃっと盗んでいく。

 

考えるほど、奇妙でイビツだ。

 

 

そういえば昔、私が勤める会社に商談に来た外部の営業マンが、うちの社員のビニール傘を持ち去ったこともある。

 

その営業マンは雨の中、傘をさして来社した。彼が使っていたのは、ビジネスホテルの名前が大きく書かれた、安っぽいミニサイズの青い傘。県外から出張で来ていたので、おそらく宿泊したホテルからサービスの傘を借りたんだろう。

 

しかし彼が帰ったあとも傘立てにはその小さな青い傘が残っていて、代わりに消えたのは、それとは明らかに見た目が違う、ビッグサイズのしっかりした透明ビニール傘。うちの社員の私物だった。

 

商談のために訪ねた会社から、まさか傘を盗むはずはないし、きっと何かの間違いだろうと思った。でも、こんなにデザインも大きさも違う傘なのに、なぜ間違えるんだろう……

 

当時は不思議でたまらなかったけれど、今日定食屋で傘を盗まれたあと、悶々と考えながら、ふと合点が行った。

 

「平気で傘を盗める人」がいるんだ。

 

その傘の先に持ち主がいることに気づかない、分かっていても気にしない、そんな人達がいる。

 

安い傘は、使い捨て。価値なんてない。盗って盗られて、それが当たり前。いちいちビニール傘なんかに所有権を主張しない、そんな人達がいるんだ。

 

だから彼らは本当に普通に、とってもナチュラルに、当たり前のように人のビニール傘を盗む。

たとえ職場の近所でも、仕事の休憩中でも、商談の相手先でも。

 

あまりに当たり前のことすぎて、きっと体がビニール傘を盗ることを覚えていて、なにも考えたり気にしたりせずに、他人の傘を持っていく。

 

だから、自分が使っている傘にも興味はない。自分がどんな傘を持ってきたかなんて、室内で過ごすうちに忘れてしまう。そして、自然に手近なビニール傘を持っていく。そこには何の躊躇も罪悪感もない。

 

普通に、平気で傘を盗んでしまうんだ。

 

こわいよね。

 

 

まあ今日の定食屋で、わたしの傘を盗んだやつは、いつかゲリラ豪雨に打たれて下着やカバンの中までビショビショになって、スマホも水没状態になって、大切な靴もカビ臭くなってほしいんだけど。

 

そんなクソのことをいつまでも考えて呪うのもクソしょうもないことなので、さっさと忘れて、次はかわいい傘を買って大切にしようと思う。あーあ。